『月刊群雛』2016年05月号には、よたかさんの小説『ウラ垢女子 セラ』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプル・著者情報などをご覧ください。
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作品概要
以前掲載していただいた『ウラ垢女子 リンリン』の続編です。登場人物は普通の人ですが、今回からダークな部分に踏み込みます。超人的な能力はなにもない普通の人達が、普通にやれる事を書いただけの短編なので、内容は結構地味です。
今回の作品は、ドストエフスキーの『罪と罰』に登場する、敬虔なクリスチャンのソーニャをモデルにしました。家族のために娼婦になった彼女を150年後の日本につれてきたのですが、思った以上にすんなり収まってしまってショックでした。この一世紀半の間に、人はそれほど進歩していなかったのではないでしょうか?
前回に引き続き登場する隆司と澄々には、じっくりセラのことを心配してもらいながら、お互いの関係を深めていただきました。もっと物語が進んだ時に、彼らが本当に誰かを助ける事ができれば一番嬉しいのですけど、それはいつになる事でしょう?
―― ネットでイメプをする女の子の事情
ウラ垢女子 セラ
SNSでウラ垢(裏アカウント)を使う人たちの理由はさまざまです。興味本位だったり、目立ちたかったり、セフレや浮気相手を探している人もいます。中には居場所がない女の子たちも少なくありません。
名古屋市栄の小さな事務所で働いている、葛島隆司(25歳男性・ウージ)と林澄々(26歳女性・リンリン)は、去年のクリスマスから付き合いはじめました。それほど恋愛経験もないふたりは多少ぎこちなく、それでも楽しく過ごしてました。
『隆司くん、日程表出しておいてね』
『それなら、サーバーにアップしました』
『あぁ、そう。見るわ。ちょっと待っててね。――なにこれ?』
『林さん、なにか変ですか?』
『変ですか? じゃないわよ。作業時間が短すぎ。これじゃ外注さん死んじゃうわよ』
『林さん、ちょっと甘いです。あそこの納期は上げ底なので、これくらい短くてもまだ大丈夫ですよ』
『本当にそう? だけど土日作業のデフォはナシよ。あそこの子ども、まだ小さいんだから』
『ですけど林さん。土日完全休養だと、納期が数日遅れちゃいますよ』
「あのねぇ、君たち」打ち合わせ中のふたりの後ろから、部長が声を掛けた。
「はい。なんでしょう。部長」「どうしました部長」
「打ち合わせするのに、となりの席でチャットってどうなの」
「えぇ、でも、あ、あのですね、ちょっと緊張しちゃって」
「私も持病の癪が……」
「癪ってなに? まぁ、仕事やってれば別にいいんだけどね」そう言い残して、部長は席に戻った。
「ねぇ、隆司くん。私たちって変かなぁ」
「えっ、そんな事を言われても、あまり経験がないし、よくわからないです。林先輩」
「ねぇ、なんで先輩ってつけるの? なんで名字なの?」
「いや仕事中だし、名前で呼ぶのは、ちょっとアレだし」
「アレってどれよ。ちゃんと……、〝澄々〟って呼んで欲しいんだけど……」
「いや、あの、勘弁してください。オレにはまだ、ハードルが高すぎます」
「あのね、ふたりとも」
「あっ、はい。部長」「なんでしょう部長」
「もうチャットでもなんでもいいから、仕事してください」
「は、はい」「すいません」
含み笑いが小さな事務所の中に広がった。小さくなるふたりを見て、部長は苦笑いをうかべた。
※サンプルはここまでです。
作品情報&著者情報
よたか
―― まず簡単に自己紹介をお願いします
こんにちは。よたかです。群雛の応募は今回で3回目ですけど、毎回なにかしらやっちまって校正担当の方々にご迷惑をお掛けしてしてばかりです。本当にすいません。
最近は会話文の楽しさをおぼえてしまって、会話文の作品ばかり書いてます。会話文を書くときは、俳句や短歌、落語などのリズムで書くとスムーズに読めてウケがいいようです。実はリズム優先で書いてるので、文法無視してる事も結構あります。
そう言う意味では極めてイタリア語っぽい(本当か?)かもしれません。
会話文を駆使して書けば少々小難しい話でも、ちゃんと読んで貰えるのではないかと期待していますので、ますますハードな内容に挑戦して行きたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
―― この作品を制作したきっかけを教えてください
ウラ垢女子たちがどうしてそこにいるのか考えた時、なんとなく『罪と罰』のソーニャを思い出したからです。
―― この作品のターゲットはどんな人ですか
子どもを守るべき立場の、大人たちに読んで欲しいと思います。
―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
ネタは3カ月掛けて集めました。書いたのは7日、推敲は2カ月くらいです。
―― 今後の活動予定や目標を教えてください
とにかく長編を書きたいです。プロットは何本か用意したので、あとはどうやって書く時間を作っていくか、気持ちの問題だと思います。
―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします
群雛に載せていただいたことで、モチベーションが維持できています。どんな形にせよ紙の本が手に入るっていうのは、本当に嬉しいです。
結構ギリギリの事を書いている自覚はありますので、批判も含めて感想を貰えると嬉しいです。そういった感想をいただければ、もっともっと踏み込んだ話を書いていけるような気がしております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
よたかさんの作品が掲載されている『月刊群雛』2016年05月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。