『月刊群雛』2016年03月号には、和良拓馬さんのエッセイ『念じた先の光』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルなどをご覧ください。
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作品概要
リオデジャネイロへの切符はわずか2枚。この試合を落とすと、可能性はほぼ閉ざされる。狭き門に挑む日本代表の選手たち。照明の眩い光が代々木のフットサルコートを照らす中、闇の中にいる彼らの静かな戦いが始まった。
「ブラインドサッカー」をご存じだろうか? アイマスクを装着し、ボールの音とまわりの声のみで行う5人制サッカー。パラリンピックの種目にもなっている。
今回は2015年9月に開催された「IBSAブラインドサッカーアジア選手権」より、日本対韓国戦の観戦記をお届けしたい。本稿がいわゆる「障害者スポーツ」への理解を、少しでも深める存在となれば幸いである。
―― 闇の果てまで、声は届いた
念じた先の光
1.
前半の半ばを過ぎたあたりだっただろうか。何でもないような場面で審判が突然笛を吹き、試合は中断してしまった。スタンドではひそひそ話が溢れる。何があったのだろうね、と。
次の瞬間、前の席にいた女性が空を指差した。僕も示された方角を見上げる。確かに上空からは重低音が轟いている。ヘリコプターから発せられる音だった。
重低音は点滅する光と共に、ビルの向こうの空へと消えていった。静寂が再び訪れたと認識した審判は、もう一度甲高い音色を響かせた。
2015年9月4日、僕は国立代々木競技場フットサルコートに足を運んでいた。そこではサッカーの試合が行われている。1300人入る観客席は7割がた埋まっているだろうか。しかし、観客席からは何一つ音が発せられていない。ピッチから声が聞こえるだけだ。ゴール裏からはリズムを刻む太鼓も、手拍子も、チャント(応援歌)も無い。
なぜサッカーの試合なのに、観客席から音を出してはいけないのか?
それは、この選手たちはプレーをする際、周囲から聞こえる音のみで状況を判断しているからだ。裏を返せば、視覚を用いて今の状況を判断することができないのである。
2.
僕が観ている大会は、「国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)ブラインドサッカーアジア選手権」というものだ。今大会はリオパラリンピックの予選も兼ねており、総当たりのリーグ戦で参加6チーム中上位2チームがその出場権を獲得する。
そもそも「ブラインドサッカー」とは、4人のアイマスクを装着したフィールドプレーヤーと、晴眼者(視覚障害のない者)ないしは弱視者のゴールキーパーの合計5名で試合を行うスポーツだ。晴眼者もアイマスクをすればプレー可能だが、国際大会だとフィールドプレーヤーは全盲者に限られる。
先ほど「周囲から聞こえる音のみで状況を判断している」と書いたが、ブラインドサッカーではそのための工夫をいくつか施している。まず、ボールからは乾いたシャカシャカという鈴の音が鳴るようにになっている。この音を頼りにして、プレーヤーはボールの位置を判断しなければならない。また、相手ゴールの後ろには「コーラー」と呼ばれる指示者が立っており、プレーヤーにボールの位置やゴールまでの距離・角度を伝えている。サイドラインには1メートルほどのフェンスが立てられており、壁を用いたパスやボールの争奪戦は、アイスホッケーのイメージに近い。
色々とルールを説明してきたが、僕がブラインドサッカーの魅力だと感じたのはズバリ「ドリブル」である。なぜなら、一般的なサッカーのドリブルと比べて、足下の技術はより一層繊細なものが求められるからだ。
※サンプルはここまでです。
作品情報&著者情報
和良拓馬(わら・たくま)
―― まず簡単に自己紹介をお願いします
こんにちは。和良拓馬(わら・たくま)です。『月刊群雛』は7回目の出場となります。
スポーツ観戦をする際、僕は「聴くこと」をとても大事にしています。もちろん「見ること」も大事なのですが、昨今は様々な試合がテレビ中継されるので、後追いの確認も容易になっております。ですが、音に関してはスタジアム内じゃないと解らないことが結構多いのです。そんなマイクでは拾えない「音」についても、ぜひ注意して頂けるとよりゲームを楽しめることでしょう。
……えーっ、話がそれてすいません。本年度も「インディー・スポーツライター」(兼インディー・サラリーマン)を自称し、全国各地の多種多様なスポーツを追いかけていこうと考えております。取材記録はブログとツイッター、書評はブクログにてお楽しみ下さいな。
◆ブログ:『ラグビー選手になりたかった』
http://will-be-rugby.blogspot.jp/
◆Twitter:
https://twitter.com/Waratas/
◆ブクログ:『こんなの読んでしまいました』
http://booklog.jp/users/waratas/
また、『月刊群雛』2015年12月号 のインタビューでぼそっと答えたセルフパブリッシングの新作ですが、今年の1月10日に『ラグビー選手になりたかった』 というタイトルで発売しました。「今、そこにあるラグビー」を知るにはもってこいの1冊です!
◆『ラグビー選手になりたかった』
http://willberugby.tumblr.com/
―― この作品を制作したきっかけを教えてください
今までとは違う視点の作品も書きたいなあ……ということで様々なスポーツを取材に行く中で、ブラインドサッカーと出逢いました。
―― この作品のターゲットはどんな人ですか
「パラリンピックはあんまり見ないなあ」という方にも、魅力が伝わるように仕上げさせて頂きました。
―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
秋に2~3日で土台の原稿は書き終えていました。そこから2週間弱ほどかけて少しずつ中身を再構築しました。
―― 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか
Facebookは本名名義かつプライベートの範疇で活用していたのですが、段々顔見知りにも僕の作家活動が浸透してきたので、色々宣伝するようになりました(笑)。「いいね!」はぼちぼち稼いでいます。
―― 作品を制作する上で困っていることは何ですか
自分はこういう「型」でお話を書くのが得意だな~、と思う一方で、毎回同じ「型」でお話を書くと飽きられないかな~、という懸念も抱いています。上手い具合にフレッシュさを出し続けていきたいところです。
―― 今後の活動予定や目標を教えてください
各種電子書籍ストアで無料配信している『スタジアムの言い訳』ですが、これを今春より季刊化したいと考えております。その全容もいずれお話させて頂きます。また、次に『月刊群雛』へ登場する際には、本格的なスポーツ小説をご用意したいと考えております。
―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします
少しだけ後日譚を。残念ながら、ブラインドサッカー日本代表は健闘空しく、リオパラリンピックの出場権を逃してしまいました。今年からは新監督を迎え、2020年の東京パラリンピックを目指しています。今後も彼らの活躍と歓喜の瞬間を記せるように、再び試合会場に足を運びたいと思っております。
和良拓馬さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2016年03月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。