小説『6人の出張 エビコー鉄研の短い一日』が『月刊群雛』2015年12月号に掲載! ―― 作品概要・サンプルと米田淳一さんインタビュー #群雛

作品情報&著者情報
『月刊群雛』2015年12月号

『月刊群雛』2015年12月号には、米田淳一さんの小説『6人の出張 エビコー鉄研の短い一日』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルとインタビューをご覧ください。

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※サンプルEPUBはBCCKSの詳細ページでダウンロードできます。

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作品概要

 鉄道趣味をもつ6人の高校生の女の子たちが、鉄道趣味を「テツ道」として、旅行や鉄道模型作りを通じて追求する小説作品『鉄研でいず!』の特別編として書いたオリジナル掌編です。また目いっぱい詰め込んでみました。
 鉄道趣味、特に鉄道模型は、模型ジオラマ一つ作るにも、本当に素敵に見える風景を作るためには、その実際の風景がどうやって形成されたかという、経済論・社会論といった文系の幅広い知識が必要になります。
 そのジオラマで模型車両を走らせるには、電気工学や物理、さらにはコンピュータプログラミングといった理系の分野までの知識も要求されます。
 その上、なにを模型で再現しなにを再現しないで省略すればリアリティが出るか、その風景をなにがその風景に見せているのかを分析し、思索していくことにもなる、非常に哲学的なものです。
 故に、それを学ぶ高校生6人の姿を書くことで、その広義の哲学と、現代を描き出そうと思っています。この掌編でもモチーフは共通していて作品世界をお楽しみいただけるよう考えましたが、本編『鉄研でいず!』ではさらにそれを楽しめると思うので、ぜひお買い求めください。

◆鉄研でいず! パブリッシュ版 | Official Website
http://tekkendays.tumblr.com/

―― 相変わらず走ってます。いろいろと。

6人の出張 エビコー鉄研の短い一日

「え、また出張運転展示行くんですか? 総裁」
葛城かつらぎ御波みなみが驚くと、芦塚あしづかツバメはため息を吐いた。
 彼女たちは、この海老名高校エビコー鉄研、とはいっても鉄道研究部ではなく『鉄道研究公団』を自称する女子だらけの部の部長を、『総裁』と呼ぶのである。
「それでどこで鉄道模型の運転展示するのー? 冬の季節臨時列車の撮影に行きたいのにー」
 そう言う中川なかがわ華子はなこはバスケ部にいそうな背の高い女の子だが、バリバリの撮り鉄である。
「もう! こんなに次から次へとイベントがあるんじゃ、将棋の方やってる暇無いですよ!」
 その声は鹿川かぬかカオル、将棋棋士の卵の超・頭脳明晰な女の子。校内でみなからカオル様と呼ばれるほどの貴公子っぷりだが、こっそりバイトで高校の近くを走る私鉄のダイヤ編成の手伝いをしている。
「そうは言いましても、みなさまに私達の鉄道模型をご覧いただくのは、毎回嬉しいことですわ」
 と言いながらみんなをなだめるのは武者小路むしゃのこうじ詩音しおん。鉄道工学教授の家の子で、こうして笑っても絶対に歯を見せないように口にハンカチを添えるのを忘れない、究極の癒し系のお嬢様である。
「うぬ! 我が水雷戦隊は出撃してこその水雷魂、ブリキネービーなのであるな!」
 この声の主が、その『総裁』、長原ながはらキラである。自分のキラキラネームに悩みつつ、それ以上にどっかおかしい女の子である。なにしろ『ワタクシは、テツ道王に、なる!』と宣言してしまうのだから。
「とは言いましても、また『地域コミュニティセンター』の『センターまつり』での展示ですわね」
「いかにもである。晩秋の『センターまつり』に出展するのは約束なのだな」
「でも、何を出展するんですか? 模型っていっても、あそこは部屋が狭いから、あんまり大きな鉄道模型ジオラマレイアウトは展示できませんよ。それにただレールだけ敷いて、模型の列車ぐるぐる走らせるんじゃ、面白くともなんともない。ヒドイッ」
 ツバメがぶうぶう言うが、総裁は首を振った。
「斯様な凡庸な展示をしても意義がねいのであるな。ここでワタクシがこの戦局を打開する決戦兵器として実装を考案したのは、『マイクロモジュール』なのである」
「『マイクロモジュール』? なんですかそれ」
「モジュール、つまり分割式のジオラマなのだが、普通のジオラマははそこそこの大きさに作る。それを我々は極端に小さく、248ミリの標準的な長さの直線複線レールたった1本の両脇6センチの幅だけに情景を作りこんで、それをいくつも繋いで展示運転するのであるな」
「複線レールって幅60ミリぐらいだから、両脇6センチって……幅180ミリ? 小さい!」
「それを部員1人1つ作る『チキチキ! マイクロセクション作りこみ王選手権!』なのである!」
「総裁、テレビネタは今時流行らないですよ」
「それよりみんな、ほら! 鉄道模型なんか知らない読者のみなさんがボー然としてる!」
「あっ!」「ほんとだ!」
「というより、こういう話を趣味に走ってここにぶっこむ著者が、ほんと、どうかしてるのよ」
(著者:すみません……)
「ともあれ、直ちに製作に勤しみ、センターまつり搬入日までに各員完成させるのである!」

※サンプルはここまでです。

米田淳一さんインタビュー

米田淳一

―― まず簡単に自己紹介をお願いします

 YONEDENこと米田淳一(よねた・じゅんいち)です。『月刊群雛』ではいつもお世話になっております。
 SF小説『プリンセス・プラスティック』シリーズで商業デビューしましたが、自ら力量不足を感じ商業ベースを離れ、シリーズ(全14巻)を完結させパブーで発表中。他にも長編短編いろいろとパブーで発表しています。KindleストアやBCCKSでもがんばっていこうと思いつつ、現在事務屋さんも某所でやっております。でも未だに日本推理作家協会にはいますし、また、鉄道模型なんかを作るモデラーなこともしてます。
 今回の作品は、その鉄道模型の話です。趣味に走り過ぎといえばそうなんですが、鉄道模型ってのは実はすごく哲学的なものなんですよ。その哲学について物語にして、ギュッと締まった話にしたいなと思いました。案外自分で書いてて、やたら楽しくてびっくりしてます。

◆公式サイト:『モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん・2nd』

―― この作品を制作したきっかけを教えてください

 趣味で鉄道模型を作っていて、時々それで注文をうけてお金になったりもしています。そんななか、毎年職場のおまつりで子どもたちにそれを見せて、運転させてあげています。
 そのときの要素を使いながら、鉄道模型の哲学的な要素を小説にできたらいいなと思ったのが動機です。そしてその内容をどこまで群雛掌編読切作品枠に詰め込めるかにチャレンジしてみたい、とも思いました。

―― この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください

 最近鉄道ネタのラノベなんかが少しあるのですが、鉄道趣味ネタを全開でできる鉄道研究部という題材をどまんなかに書いてるものってあんまり見たことないんですよね。
 そこで私オリジナルと言いつつ、世にある学園モノをあえて鉄道研究部を舞台に再解釈するのも狙いです。ですから『究極超人あ~る』から『響けユーフォニアム』まで、いろいろと影響されてますね。『涼宮ハルヒ』なんかにも影響されてると思います。

―― この作品のターゲットはどんな人ですか

 ほんとうは学園モノって、みんなほぼ学生時代経験しているので、かなり広い人々をターゲットにできるはずなんですが、猛烈に趣味に走り過ぎて狭めているという反省はありです。
 でも、その楽しさの走りっぷりに共感してくれる方と、鉄道趣味の方は確実にターゲットにできると想定しています。

―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか

 構想自身はすでにあったとはいえ、実は11月号の原稿の募集がかかって、掌編枠が空いてる、と判明した時点で書き始め、掌編枠が埋まる前に書き上がりました。その間、ものの数時間ですね。しかもその時間内に字数調整までしたんです。
 で、これで載せてください! って手をあげられると思ったら。
 私、10月号に載ってたんですよね……。2号連続掲載不可のレギュレーションに触れちゃうわけです。涙を飲みました。そこから1カ月たっぷり寝かせて、少し再調整したので作業実時間は1日もないです。

―― 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか

 鷹野編集長のコラムを拝見しながら、自分で「Twitter宣伝大作戦」を開始してます。
 Twitterは震災の後、いろいろとタイムラインがしんどくなって放置していたのですが、またフォローを増やし、フォロワーを増やし、今連載中の『鉄研でいず!』本編の新エピソード追加時には「追加記念連続ツイート!」と称して取材の時の裏話を写真を交えてやってます。

 で、その結果は、アクセス解析でPV(無料公開なので)が実施前比150%となりました。やってる楽しさとともにこれだけ効果出るとやっぱり楽しい訳で、もっとなにかできないか考えてます。
 他にもFacebookとかも、以前より積極的にやるようにしました。こっちはまだ正確な効果の測定はできてません。でも、積極策に出ることはなにかと良い感じです。

―― 今後の活動予定や目標を教えてください

 これで12月号掲載ということは、私は年末年始を飾れる1月号(12月22日発売)に自動的に参加できなくなるわけです。故に1月号は他の方の応援をするとともに、なにか私独自でBCCKSで本を作ってストア配信までやりたいなと。
 今のところ架空戦記1冊がBCCKSにデータを流し込む直前までできてます。あと今連載してる『鉄研でいず! シーズン2』も最終話までイケるかなと。
 『雛の四季報』2号の準備もせねば。これは来年2月末ごろの発表にしたいと思ってますが、そうはうまくいかないだろうなあ……。でもやれることはやります。

―― 2015年に読んだ書籍ベスト3を教えてください

 ぎゃあ、そういうのすごく苦手なんですよ。で、今、今年の読書記録見ると……うわっ、恐ろしいほど本読んでないなあ、ということが判明。
 ほとんど電子で、しかも値引きの凄い合本をどっさり買って読まずに積ん読して満足した1年でした。ヒドイッ。

・『アルゴリズムが世界を支配する』 クリストファー・スタイナー
http://www.amazon.co.jp/dp/4040800044/
 すごく興奮。今年私がプログラミングとか始めたのはこの本がきっかけ。

・『主役じゃなかった彼に捧げるささやかな悪意の日記』 晴海まどか(はるみ・まどか)
http://syuyakujanaikare.tumblr.com/
 これは文句無しに良かった。楽しく読みました。うひひ(なぜ)。

・『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。』 鷹野凌(たかの・りょう)・福井健策(ふくい・けんさく)
http://book.impress.co.jp/books/1114101048
 ほんと役に立つ。うっすら常識と思っていたことの整理が捗りました。

 毎回の『月刊群雛』を読んで、こうやって群雛関係者の読んで、役に立ちそうな本を読んで……いいのかこれで。まあ、どれもすごく読書好奇心としては満足だったのでいいんですけどね。
 あと今更『虐殺器官』伊藤計劃(いとう・けいかく)とか『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンドとか、あと一応『火花』又吉直樹(またよし・なおき)とか読んだけど、昔の本だったり、私があえて推すことないなあと思ったりで割愛。世評は世評だもんねえ。

―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします

 今後とも『プリンセス・プラスティック』と『鉄研でいず!』と『雛の四季報』をよろしくです。
 前回「感想をいただければなんだってできるのが書き手」って話をしましたが、ほんと、そのとおりに今、私に頂いた感想が力づけてくれてます。感謝の限りです。
 ほんと、物事を面白くするのは、それを積極的に楽しむことだと思います。
 読む方も、読むことで盛り上げていきましょう! きっとさらに面白くなるはずですから!

米田淳一さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2015年12月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。

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