『月刊群雛』2016年06月号には、黒桃将太郎さんの小説『再考の人生』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプル・著者情報などをご覧ください。
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作品概要
生きる歓びを見失った時、ソレをやり直せるとしたら……そんな妄想が現実に成った時、正しい選択が出来るのだろうか……
時間を操る『時間繰り』が目の前に現れて、時間を戻してくれる。そして考え直した新しい人生は、果たして最高の人生だろうか。
浪漫奇譚でお届けする、奇妙なショートストーリー。
―― では、お考え直しておいでませ
再考の人生
溶ける氷がカラリと音を響かせる……
薄暗い部屋、オレンジ色の豆電球の下でグラスを傾けつつ、溜め息を安売りする。その原因は結婚生活。すでに妻はオレに対する興味を失い、一人娘の相手と自分の用向きだけで毎日を消化している。さらに一人娘は、父親を敬遠する年頃に差し掛かっている為、虚しさの相乗効果は容赦無い。
出先から帰ってくると静かに鍵を開け、冷めて固く成り、皿にへばり付いてしまった食事を突きながら、安上がりなアルコールで自分を慰める毎日が続く。
これから先、いつまでコンナ人生が続くのだろうか。ドコで人生を間違えたんだろうか……いくつかは、幸せへの分かれ道もあったはず。選んだ結果が、尽く裏目に出て仕舞った。
いつか逆転の目がある……そう信じ、ドウにかコウにか生活しているがソレも限界。夜は眠れず、只、憂鬱な気分をアルコールで消毒するだけ。
自分の知らぬ間に育ってゆく娘。娘の笑顔を見たのはいつが最後だろうか、妻と会話したのは……
「今日は少し飲み過ぎたかな……」
一段と大きな溜め息と涙が出る。ボウヤリと滲んだ瞳、視界の端に人影が動く。
「ああ、五月蝿かったか? 起こしてスマンな」
妻の機嫌が悪く成るのを嫌って先に謝る癖も付けた。ダラしない格好の妻は、テーブルのオレに一瞥も呉れず、水道を思い切り捻ってステンレスのコップで水を飲む。当て付けの様に放り投げられたコップが、散らかった台所で耳障りな音を立てる。もう何をされても、妻の態度に小言をブツける気力すら起きない。
ピシャリ、と閉められた襖を、フト見つめた。端の破れた襖紙は、娘が悪戯した時の物。クレパスで描かれた漫画のキャラクターは、時が経ち、薄れている。可愛かった娘と優しかった妻を、幾ら思い出そうとしても、幸せだった記憶はスッカリ抜けている。特別大きな溜め息と共に、ツウと涙が頬を伝った。ナンという人生。何がいけなかったのか。やり直せるならばやり直したい。悪魔に魂を売ってでも……
伝った涙が、グラスに落ちて、溶ける氷へ染み込んだ。
「アナタ……ソンナに今の人生が……お嫌?」
耳元で声が聞こえた。妻のでも娘のでもない。中年の男の様な、老女の様な……
「誰だ……アンタ……」
ソコには、如何にもな濃灰色のローブに、捻れた杖を持ち、腰までの長い黒髪を揺らした美しく若い女が立って居た。
※サンプルはここまでです。
作品情報&著者情報
黒桃将太郎(くろもも・しょうたろう)
―― まず簡単に自己紹介をお願いします
フリーランスで主にウェブライターをしながら、出版社の新人賞等に応募しつつ電子書籍作品を増やしていっております。
ここ数年、官能小説を書いているのですが、人間ドラマ、愛憎劇などのドロッとした人間の闇の部分に興味が有ります。
群雛では、浪漫奇譚を発表していこうと思っています。
―― この作品を制作したきっかけを教えてください
星新一(ほし・しんいち)作品を読んで「僕も短編を書きたい」と思い立ち、自分のカラーが消えないようにと数作書いてみたうちの一作です。
―― この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください
星新一『ようこそ地球さん』を始め、ネット等で読んだアマチュア作家の短編でしょうか。
―― この作品のターゲットはどんな人ですか
好き放題書いておりますので特に考えておりませんが、強いて言えば昭和浪漫等が好きな方へ。
―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
書いては放置を繰り返し、今回はブラッシュアップに時間を割いたので、トータルで二カ月程です。
―― 作品を制作する上で困っていることは何ですか
やはり読んで貰って、率直な意見を頂ける機会が少ないことです。
―― 作品を制作する上で嬉しかったことは何ですか
新しい出会いです。小説を読んで貰い、気に入って貰えたこと。以降電子書籍の表紙等のイラストを書いて頂けるようになりました。
―― 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください
江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)、丸尾末広(まるお・すえひろ)、夢野久作(ゆめの・きゅうさく)は相変わらず好きで、最近は星新一作品を読んでいます。
―― 今後の活動予定や目標を教えてください
僕の作品の雰囲気が好みだと、表紙絵等を提供してくれるイラストレーターさんと御縁がありまして、一緒に活動していこうと思っております。
来るべき電子書籍の時代の為、一作でも多く一打でも多く布石を、との思いで出版していきたいと思います。
―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします
電子書籍を数冊出しておりますので、良ければホームページからでも、ご覧に成って頂けたら嬉しいです。機会があれば、直接でも感想を頂けたら今後の励みになります。
◆ホームページ:『黒桃館』
https://k-kuromomo.amebaownd.com/
◆Twitter:デヴォン黒桃
https://twitter.com/l_o_v_e_momo/
◆Facebook:黒桃将太郎
https://www.facebook.com/kuromomoshotaro
黒桃将太郎さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2016年06月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。