『月刊群雛』2016年05月号には、菊地康之固有正弦波さんの小説『暗闇にパブリック』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプル・著者情報などをご覧ください。
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作品概要
封鎖された町では自警団が結成され、そこで三人の女の子がグループで町内パトロールを行っている。そこではじめて遭遇する殺人事件。警察に任せた方がいいのでは、という意見はどこへやら。ヒートアップしたところに、推理が展開されるのだが。
―― 謎なんか最初からない、アンチミステリ。
暗闇にパブリック
「霧雨煙る夜のロンドン。切り裂きジャックがばっさばっさと人間を切り刻んだ頃がありましたが、この論理パズルを完成させ、事件を解決させた人間はいませんでした」
と、有名未解決事件を想起させてしまうほど、目の前にある死体はバラバラで酷たらしかった。内臓は鴉が食い散らかし飛び散ってる。大きな血の池が出来ていることから、犯人はここで被害者を殺したか切断したと推測出来る。
「公園の草むらに死体と血の池。ここで昨夜、気づかれずに切断を?」
「いや、無理でしょ」
私の隣であくびを噛み殺しながら、美鈴が生意気を言う。
「ねみーですよ」
結局噛み殺し切れず大きなあくび。腕を伸ばし背筋を伸ばす。
「あくびすんな」
私が怒ると、
「川原先輩は怖いですー。こいつ殺したの先輩じゃねーんですか?」
気の抜けた声で応じる。
「人間の脂肪分を舐めちゃ困るわ。チェーンソー使ってもここまでバラバラには出来ない。犯人はどうやって……」
「チェーンソーのチェーンを取り替えながらやったんじゃねーっすかー」
美鈴はものすごくやる気がない。なにを考えているのだろう。昼間からなんで示し合わせたかのように、バラバラ死体とご対面しなくちゃならないのかしら。
先月、この町の治安は最悪なものになり、町が封鎖されてしまった。国の中央の方でなにかあったのが原因のようだけれど、それがなにかは知らされないままだ。治安の悪化に抗するため、スラム街のお姫様・琴音ちゃんの呼びかけで私たちは自警団を結成した。その中で私たちのグループは私と、美鈴、望月の三人で活動している。
自警団のパトロールではいろいろな事件に遭遇する。今回もやっぱり事件に遭遇した。でも、さすがに殺人事件ははじめてだ。しかも、そのはじめての殺人事件がバラバラ殺人だなんて。
私の手のひらに嫌な汗が滲む。
鴉が途中まで引きずって捨てた腸を見下ろす。そして、恐る恐る触ってみる。冷たい。死体が冷えているってことはやっぱり……。
「先輩! 川原先輩! お取り込み中、すまないんですけど、私たちは国家権力じゃねーんですよ。こんなの公僕さんたちに任せて、私たちは、狂いはじめているこの町を、もっとマクロな視点から見る必要があるんじゃねーんでしょうか?」
美鈴は死体のある草むらと私を交互に見る。私は、
「確かにそうね。でも」
と、持論を展開させようとしたが、それを阻まれる。
「でも、とか、だが、とか、しかし、とかは要りません。速やかに撤退しましょう」
※サンプルはここまでです。
作品情報&著者情報
菊地康之固有正弦波(きくちやすゆきこゆうせいげんは)
―― まず簡単に自己紹介をお願いします
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◆はてなブログ:『ペンギンディスコ戦記(改訂版)』
http://penguindisco.hatenablog.com/
―― この作品を制作したきっかけを教えてください
ミステリとSFの交錯したところを目指しました。独立した作品ではあるんですが、僕の今、つくっているサーガの中のひとつに位置づけられる作品なんです、実は。「ヨクナパトーファサーガとか、いいじゃん」みたいなノリでサーガを計画してます。
―― この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください
いわゆる後期クイーン問題に繋がる作品となってしまいました。物語という形式にある「ほつれ」のようなものを、きっと僕はどうしても指向してしまうのでしょうね。しかし、もちろんニューウェーブSFとして読むことも出来ます。
―― この作品のターゲットはどんな人ですか
さきほどサーガと書きましたが、その関係で「封鎖された町」という状況設定になっています。そこをうまく「ふーん、そうなんだ」と受け流して、入っていける人には楽しんで戴けると思います。あと、言葉遊び好きなひと。
―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
一週間はかかりました。何故かというと、書けない日があったからです。
―― 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか
noteです、主に。Twitterではずっと愚痴ってます(笑)。
―― 作品を制作する上で困っていることは何ですか
資料を読む時間がないことです。今、小説の再勉強をはじめたので、実作の資料は後回しになってます。
―― 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください
虚淵玄(うろぶち・げん)さん、すごいな、と今更ながら思っています。
―― 今後の活動予定や目標を教えてください
これを書いてる段階で、新人賞の締め切りに間に合うかかなりきわどいです。まさに「今、目の前にある目標を失うか否か」という戦いをしています。
―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします
きっとまた会うぜ。再び書かせてもらえれば、そしてその時お互い生きてれば、その時は、また。
菊地康之固有正弦波さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2016年05月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。