東方健太郎さんの小説『珈琲』が『月刊群雛』2016年02月号に掲載! ―― 作品概要・サンプルなど

作品情報&著者情報
『月刊群雛』2016年02月号

『月刊群雛』2016年02月号には、東方健太郎さんの小説『珈琲』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルとインタビューをご覧ください。

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作品概要

 どんなに近くにいる人でも他人、という距離感の中で、それでもふわっと一緒にいられることを大切にできたらいいな、というテーマがいつもあり、今回はその傍らにコーヒーを交えながら書きました。

―― コーヒーを傍らに、何気ない日常の一コマを

珈琲

 いつものことだった。私は女の眠っている隣で静かにコーヒーを飲んでいた。女はいつも、した後ですぐに眠ってしまう。したいだけだろ、と私以外の男でもそう思うだろう。私は基本的に優しいと評される性格ではあるが、そんな私でも女の身勝手には許せないものを感じるときがある。

「あ、おはよう……」
 女は眠たそうに目をこすって、ぼんやり起きてきた。
「おはよう……って」
「ごめん……」
「二時だよ」
「だから、ごめんって」
「もうどこもやってないよ」
 今日は私の誕生日で、女とは、まずしてから食事に行く約束をしていた。
「作るよ……」
「こんな時間に?」
「ごめん……」
「寝てなよ」
「おやすみ……」
 そう言って女はまたすぐに寝息をかき始めた。ごめん、なんて心にもないことは見え見えだ。
 だけど、女のそういうところは分かった上で付き合っているし、それは女にしても似たようなものだろう。
 私たちは、結局、特に大きな喧嘩はしないし、お互いを問いつめることもしない。私は、女のあれやこれやについて見て見ぬフリをしてしまうし、女もまた、私のわがままをさらっと受け流してしまう。

 淹れてからしばらく時間が経ちぬるくなったコーヒーはどこかよそよそしく、それが逆に好ましかった。苦味だけが残る枯れた味わいは、淫らな女の寝顔を余計にいやらしく匂わせた。
 ブラックで飲んでいたコーヒーに今更ながらミルクを注ぐと、少しだけ口当たりがソフトになった気がする。
 女に気付かれないうちに飲み切ってしまいたくて、途中から一気に飲み干した。
 ふと女の寝顔を見ていると、昔付き合っていた年上の女性を思い出す。女の寝顔はいつからこんなに大人びてきたのだろう、と感慨に浸りそうになり鼻を啜って紛らした。
 冬の澄んだ空気の星空は、今夜半過ぎ、雲行きが変わり、雪が降り始めるという予報だった。
 天気予報など普段からあまり信用していないのだが、こういう予報なら当たってほしい。女の寝顔を見ながら、雪の降る夜を過ごすというのも悪くない気がする。

※サンプルはここまでです。

作品情報&著者情報

東方健太郎(ひがしかた・けんたろう)
東方健太郎(ひがしかた・けんたろう)
―― まず簡単に自己紹介をお願いします

 私は元々、音楽や短歌などを作っていて、最近になり短編の小説を書き始めました。全くの素人なのですが、今は新人賞などに応募をしたりしています。

―― この作品を制作したきっかけを教えてください

 この作品は、今回「群雛」というメディアに何か関わりを持てたらなという思いから書いていた作品の中の一つです。

―― この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください

 珈琲というキーワードから、若い頃によく読んでいた江國香織(えくに・かおり)さんにはかなり影響を受けていると思います。

―― この作品のターゲットはどんな人ですか

 割とふわっとした映画のような雰囲気が好きな方に読んでもらえると嬉しいです。

―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか

 とても短い掌編ですが、丁寧に2〜3週間くらいかけて書いていました。

―― 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください

 今期の芥川賞候補に選出された劇作家・本谷有希子(もとや・ゆきこ)さんの今後の活動に注目しています。

―― 今後の活動予定や目標を教えてください

 いくつかの文学新人賞を目標にはしていますが、まずは目の前の日常や暮らしなどを丁寧に物語に綴っていきたいと思っています。

―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします

 ゆるい雰囲気の作品を書き続けていけたらと思っています。またお目にかかる機会がありましたら、そのときはよろしくお願いします。

東方健太郎さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2016年02月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。

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