群雛を作ろう ― ゼロからおしえる群雛のはじめかた ― hatching primer 第6章

ノウハウ・ハウツー
ゼロからおしえる群雛のはじめかた ― hatching primer

NPO法人日本独立作家同盟の電子雑誌『月刊群雛』に、作家と編集両方の立場から関わることになった波野發作(なみの・はっさく)氏が、『月刊群雛』への参加方法について優しくかみ砕いたガイドを寄稿してくれました。短期集中連載第8回は、「群雛を作ろう」です。

第6章 群雛を作ろう

入稿したら、待つ

入稿を済ませたら、しばらく何もすることがない。

まあ落ち着かないのはわかるが、参加者は他にもいるし、編集スタッフは少ない。今はとにかく待つしかない。編集長がチェックを終え、Googleドキュメントでの共有準備が済んだら、担当スタッフが決まって、校正をしてくれる。10日ぐらいはかかると思っていて間違いはない。現在の編集スタッフは皆ボランティア(レベニューシェアで数%の報酬はあるが、作家陣よりは遥かに少ない)だし、本職の合間に作業をするのだから、そうそうすぐには戻らない。あなたにできることがあるとすれば、入稿前に念入りに原稿をチェックしておくことぐらいだが、すでに送信したのであればもう何もすることはない。

むしろやらない方がいいことがある。それは自分の作品を見返してしまうことだ。いまさら遅いし、見れば見たで直したいところが見えてしまう可能性が高い。しかし再入稿は御法度だ。今は待つしかない。で、あれば、今はもう読まない方が健康には良いはずだ。なので、今は一旦群雛のことから離れて何か他のことをした方がいいだろう。次の作品を考えるもよし、溜まってる積読書を切り崩すもよし。なんならどこかに出かけるというのもいいだろう。ちょうど同盟セミナーでもあれば、足を伸ばすのもオススメだ。とにかく、気を紛らわせてこのモラトリアムを乗り切ろうではないか。

あ、そうそう。Gmailは必ずチェックしておこう。

うっかり通知を見逃すと時間がもったいないからね。

そして、しばらく待っていると、編集長からGoogleドキュメントで共有ができたとの通知が来る。必ず来る。だから安心して待とう。どうしても心配な場合は、確認のメールを送ってみよう。

校正をしよう。いや、校正を受け取ろう

さあ、編集長からGoogleドキュメントでの作品原稿とインタビュー原稿の共有設定完了の通知が来た。まずは、メールに書かれたURLから、アップロードされているあなたの作品を見に行ってみよう。

開けてみて、指摘が山のようにある可能性もある。なんだか人格を全否定されたような気分になるかもしれないが、それは違う。担当の編集スタッフはあなたの作品が『月刊群雛』に掲載されたときに、読者に一番魅力的に読ませられるように徹底的にチェックを入れただけだ。この時点でこの作品は『月刊群雛』への掲載は決定している(よほどのことが無ければだが)。ということはもう読者(金を払う人)は、あなたの作品に金を払って読むことが決まっているのである。そこに不備のある作品を送り込むわけにはいかない。そして、不備を抱えたままリリースしてしまうことは、あなたの評価にも直結する。あなたの目の前にあるその指摘の山は、その必死の校正の現れである。本気と本気のぶつかり合いの結果であると受け止めて欲しい。

とはいえ、事前のセルフチェックを十分にやっていればそんなに大変な状態にはなっていないはずだ。入稿前に何回読んだのかが勝負の分かれ道かもしれない。どこの編集部でもそんなに違いはないと思うが、群雛編集部では以下の項目を主にチェックする。

  1. 規定の表記に沿っているか
  2. 誤字と脱字はないか
  3. 用字統一はできているか
  4. 誤用はないか
  5. 読みにくい文章への修正提案
  6. 行き過ぎた表現への修正提案

ご覧の通り、あなたが上手いか下手かなんかはチェックしていない。話が面白いかどうかもチェックしていないのだ。あなたの甘いセルフチェックをフォローしてくれる存在だと思うのが一番妥当である。『月刊群雛』は応募の条件に「巧拙問わず」を掲げている。巧拙や面白さは読者の判断に委ねているのだ。つまり、今あなたがGoogleドキュメントを開いて、ギャーと思ったのは、あなたの作品を否定しているのではなく、あなたのセルフチェックの甘さにダメ出しされただけである。さっさと確認して次のステップに進んでくれ。

指摘はかなり具体的に示されているので、ほとんどはOKかどうかを示していけば済むようになっている。表現に関しては著者に主体があるので、あえてそのように誤記したのであれば(例えば登場人物や語り部の誤認などを表現した場合)、その旨は主張して「イキママ」にしてもらおう。だいたいは1回通してOKを出していけば大丈夫だ。こまごまと入力する手間がもったいないので、謝辞などいちいち入れずひたすら「OK」をコピペしていくだけでいい。

『月刊群雛』の制作では校正の専門用語はあまり使われないが「トルツメ」ぐらいはある。見たまんまの「その箇所を削除して詰めておく」という意味だ。取ったあとそのままにしておくこと(トルママ)もあるので、詰める場合は「トルツメ」という。あと「イキママ」ってのもよく出るが、「生かしてそのままにする」という意味なので、要は「修正しない」という指示だ。この2つ以外はあまり見かけない。普通の日本語で指示が出てくるので大丈夫だろう。もしわからない言葉が出てきたらググるか担当の編集スタッフに聞き返せばいい。

それから一番重要なのは、「すべてのコメントに返信する」ということ。『月刊群雛』の原稿はすべて著者に著作権が帰属する。それは裏返せばすべての一字一句が著者のコントロール下になければならないということだ。『月刊群雛』はこの工程の著者のコメント返信をもって、校正の承認とみなすことになっている(規約で、というよりも事実上そうである)のだから、どんな些細な変更でも、すべてにおいて修正に同意したことを明確にする義務があるのだ。修正が終わったなと思ったら、最後にファイルをざっと見て、解決の済んでいないコメントがないか確認しておこう。

インタビューについても同じようにチェックが入っているので、確認して返事をしよう。

返事には2、3日の猶予はあるが、特に迷うことがないのであれば、できるだけ即答して原稿を確定してしまおう。本当に迷っていることは、遠慮なく担当の編集スタッフに相談してみよう。

え? 特に指摘がなかった? 素晴らしい!

十分なセルフチェックができているか、元々文章が安定しているのでしょう。

では先へ進もう。

[追記]

[追記ここまで]

最終チェックも一応やるよ

全ての修正が終わったところで、編集長は原稿を取りまとめてBCCKSのエディタに流し込んで整形し、EPUBファイルを作成する。でき上がったところで各著者には確認をするために文書の共有が行われる。もちろんこれはBCCKS上で共有されるので、この時点までにはBCCKSのアカウントがなければならない。ここまでこの本を読んできた人はとっくにアカウントができているはずなので、まったく問題はない。

え? まだ作ってなかった? 早く作りたまえ。話はそれからだ。

最終チェックでダウンロードできるBCCKSのEPUBファイルは、ダウンロードして手元に保存できるソーシャルDRMである。

閲覧は好きなEPUBビューアを使えばいい。ぼくはiPad miniがあるので、これのiBooksで見ることにしている。PCの場合はKinoppyあたりがいいかな。

こうして自分が参加した『月刊群雛』が1冊丸ごと読めるのも、参加者が得られる報酬の一つだ。せっかくなので仲間の作品もガッツリ読んでおこう。絶対刺激になるし、次回作へのモチベーションアップにもテキメンだ。インタビューには意外な一面や、みんなの執筆の悩みも書かれているから、とても共感が持てる。執筆って孤独な作業だけど、同じ1冊の『月刊群雛』のために、みんな苦労したんだなって思える。最近は編集長のコラムもあるが、これはTwitterで宣伝するときのヒントになるので必見だぞ。ぼくもそれを読んで急にTwitterを使い出した派だ。

何か異常を見つけたら編集長に連絡しておこう。

〈続く〉

[posted by 波野發作

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